建築相談事例 6.欠陥と瑕疵について

新築住宅を購入し住み始めましたが、住居内への雨漏り、床鳴り、床の傷、クロスのはがれや傷、外壁のひび割れを発見しました。
近頃話題になっている欠陥住宅ではないでしょうか?

最近、新聞やTVで盛んに手抜き工事などによる欠陥住宅が取り上げられ、お茶の間の話題になることが多くなりました。
さまざまな不具合や使い勝手の悪さなどが住まい手の不安を高めていますが、すべてが欠陥であるとは思いません。
施工者などが適切な対応や修理などをしてくれる場合はあまり問題にならないでしょう
そうでない場合は住まい手は欠陥と思ってしまうのも止む得ないことと言えます。

しかし、住み手が重大だと思っていたことが軽微なものであったり、軽微なものと思っていたことが実は構造上の重大な欠陥を含んでいたりする場合もあります。
それを判断する為に絶対的な物差しで、これが「欠陥だ」と決められればいいのですが一概にそうとは限らないのです。
今回の相談のように床の傷、クロスのはがれや傷などは、「欠陥なのか」「施工者の対応が悪いのか」「施工技術の問題なのか」という疑問があります。

瑕疵や欠陥は手抜き工事に見られるように故意に生じさせたもの、または過失で生じたもの、無過失で生じたものなど原因はさまざま考えられます。

その他に作り手が良しとしても受け手が満足できない相対的な価値判断の違いにより生じるものもあります。
内外装材の仕上の見た目の良し悪しなどがその代表例ですが、絶対的な物差しを見つけることは非常に困難です。
それらは、専門家に現地などを調査してもらうなどして判断を求めることが必要でしょう。

【経過及び原因と対策】
欠陥も瑕疵の場合も軽微なものから構造上重大なものまであり、中でも施工の上でトラブルになる場合が多くを占めています。それらの不具合や欠陥が瑕疵によるものかの判断は難しいものです。
今回の住宅内の雨漏り、床鳴り、床の傷、クロスのはがれや傷、外壁のひび割れについて現地調査したところ次のようなことが分かりました。
住居内の雨漏りはサッシレールの水抜き穴の目詰まりが原因で窓から室内に雨水が侵入したものでした。
床鳴りは鋼製床束(1階床を支える柱状の角材で鋼製のもの)の調整で直りました。
床の傷は小さいものが数箇所あり、クロスのはがれとともに軽微なものでした。
これらは補修してもらうことになりました。
外壁についてはセメント系サイディングの横張りの出隅と入り隅のコーキングの剥離がもたらすひび割れでした、これについてもコーキングのやり直しをしてもらうことになりました。

「欠陥ではないか?」との相談でしたが、この例でも分かるように欠陥かどうかはまず、現場を見てみなければわかりません
雨漏りはサッシのレール目詰まりが引き起こしたもので、日ごろ使う人の維持管理が適切に行われていれば防げたことです。
その他は構造上重大な機能などの低下を起こすようなことではなく、今回は売り手が手直しや補修に応じてくれ、相談者も充分納得したようでした。

誰にでもわかるような表面上に現れた欠陥や瑕疵で容易に直せる場合にはそう問題にはならないでしょう。
問題はどうしてこのようなことが起こっているか原因が分からない場合です。それが、明らかに出来ないと根本的な解決にはならず、たとえ表面上の修理はしてもまた同じ現象が起きてしまうのです。
雨漏りなどはこの典型で、例えば屋根の部分の瓦が悪いのか、ルーフィング、水切鉄板が悪いのか、勾配がゆるいのか、その原因を特定しなければなりません。

100の施工部位があれば、そこには100の瑕疵の可能性があり、人が介在する以上、補修が可能な小さな施工ミスが生じることは、ある一面では仕方のないことですが、安全上重大な欠陥を起こすことは絶対に許されません。
欠陥や瑕疵のある建物をつくらせない為には、良い設計者、施工者を選び、工事監理を正しくしてもらうことです。
また、購入する場合、建築する場合とも当事者本人が建築に関する情報や知識を手に入れ、早期に設計者を選んで相談することが必要です。

【欠陥と瑕疵】
「瑕疵」とは民法上の法律用語で欠陥や傷の事を指し、一般にそれは軽微なものから重大なものまでを含んでいます
また「隠れた瑕疵」、「瑕疵担保責任」という言葉も法律用語として使われています。
これらの法律用語とは別に「手抜き工事」と言われるものがありますが、こちらは故意に生じさせたものとのニュアンスがあります。

・隠れた瑕疵
一般の人が通常の注意をもって要求される程度の注意を持っても発見出来ないような欠点や傷のこと。

・瑕疵担保責任
 売買か請負によって法律の扱いが違います。

(売買の場合)
売主の担保責任は民法570条で「売買の目的物に隠れた瑕疵ありたる時は第566条の規定を準用する。但し強制競売の場合はこの限りにあらず」となっています。第566条は地上権・永小作権・地役権・留置権・質権の目的を達することが出来ない場合に限って契約の解除を認め、それ以外は損害賠償責任のみを認めています。瑕疵担保の期間は、買主が事実を知った時より1年以内となっています。

(請負人の担保責任)
民法第635条で「仕事の目的物に瑕疵ありて之が為に契約を為したる目的を達すること能ざる時は、注文者は契約の解除をなすことを得。但し建物その他土地の工作物についてはこの限りにあらず」となっていて契約解除を認めていません。
 また、平成12年4月から施工された「住宅の品質の確保の促進乙に関する法律」では、新築住宅の瑕疵担保責任期間を主要な10の部位について10年としています。その部分は1.基礎 2.壁 3.柱 4.小屋組 5.土台 6.斜材 7.床版 8.屋根版 9.横臥材(梁・桁など)I雨水の漏れを防止する部分(屋根や壁の仕上、下地等)です


欠陥と言う言葉は瑕疵の中に含まれるのですが、手抜き工事に近い感じで使われているような気がします
性能や品質、機能が達していない為に使用目的に合わないような重大な欠点をもつ場合に使われるものだと筆者は思っています。
しかし、瑕疵も欠陥も社会通念や、裁判の判決文などでは特に明確な違いは無く同じように使われているようです。

瑕疵と言われる言葉は昔、経済的に強い旦那から仕事を請け負う時代に、弱い大工や棟梁を守る立場から出来たと言われています。
すなわち、一生懸命やってその上で生じた小さな間違いもあるのは致し方ないというような意味です。
しかし、現代は情報や技術、知識、経済力など施工者側の方が施工主よりはるかに大きい時代です。
当時とは状況が一変してしまい、今では建築主の方が弱者で、社会は消費者を保護する流れになっています。

【欠陥かなと思ったら?】
施工上の欠陥かそうでないかの判断は専門家でも難しいところがありますが、一般的にはどのような場合が欠陥となるのでしょうか。
ある基準に性能や品質、機能が達していない為に悪影響を生じさせるような場合は欠陥だと考えられますが、判断する上で何等かの基準というものを考えなければなりません。

欠陥と言う為には、何等かの物差しがあって、それで測って現状と合っていないということが必要です。
施工上の欠陥かなと思ったら以下を参考にしてください。裁判の鑑定等に使われる際、基準としてよく引き合いに出されるものです。

・契約書に反するか、設計図書、仕様書を下回る施工
・建築基準法、同施行令に反するか、下回る施工
・建築学会その他建築団体の定める技術基準を下回る施工
・明文化された基準がなくても、標準的な工法、慣行上認められてきた工法に反する施工
・社会通念に照らして所要の機能及び品質を下回る施工
・住宅金融公庫の定める共通仕様書を下回る施工
(住宅金融公庫融資建築物以外でも引用される)
 などがあります。

【欠陥に遭わない為に】
建物を購入したり、建てたりする場合は工事または売買契約書、工事内訳明細書、仕様書、設計図書など準備できるように設計者とよく打合せを行い、工事中は監理者をおくことが必要です。
以下自分でも出来るチェックリストをあげます。

●建てる場合
・建築に関する情報や知識を手に入れる
・早期に設計者を選んで相談する
・建築中の監理は専門家にしてもらう
・工事現場をまめに見に行き工事中の写真を撮る

●建売住宅やマンションの購入の場合
・購入前に建物を専門家と一緒に見てもらう
・重要事項説明書、設計図書、契約書などをよく検討する。
(社)日本建築士事務所協会連合会の月刊誌「建築相談あ・ら・カルテ」
2003年6月号よりより抜粋しています。
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